木村盛世氏のブログエントリー「口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.5―」に対する指摘

彼女の口蹄疫に関する前回の投稿(口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.4- )の問題点については、このブログで既に指摘した。


木村盛世氏のブログエントリー「口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.4―」に対する指摘:


http://d.hatena.ne.jp/plecostomus1/20100602/1275491182


彼女の口蹄疫に関する一連のTweetとブログ投稿については、他にも、多くの方々がその問題点を指摘している。
このため、口蹄疫に関する発言をやめるかと思っていたが、相変わらず、おかしな事を書いている。
Twitterにおける彼女のフォローワーの中には、素直に彼女の意見を信じる人もいる。このため、再度、指摘する。


//→木村盛世氏の引用部分
☆→plecostomus1のコメント
口蹄疫→FMD


口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.5


http://kimuramoriyo.blogspot.com/2010/06/vol5.html


//FMD(口蹄疫)が広がりを見せています。
//今までFMDに関しては4つのブログ
//(口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.1〜vol.4- )
//を書いてきましたが、
//今一度FMDとはどういう病気かをまとめてみたいと思います。

//1. 蹄が2つ以上に割れている動物に罹る、感染力(他にうつす力)
// が強い感染症
//2.牛の成体の場合、死に至ることは殆ど無く、通常動物は2週間程
// 度で回復する(豚は牛よりも致死率高い)
//3.罹った動物の他、carrierと呼ばれる生物や風等、不特定多数に
// よって伝搬されるため封じ込め不可能
//4.人にうつったという報告はない
//5.感染した動物を食べても人には影響ない
//6.治療法はない
//7.ワクチンは 100%の効果無し



//罹った動物の他、carrierと呼ばれる生物


わかりにくい文章。
FMDウイルスに感染した動物の一部がキャリアになるのであって、キャリアと呼ばれる生物が存在するわけではない。


//人にうつったという報告はない


FMDに感染し発症している動物に濃厚に接触した場合、まれではあるが人に感染することはある。
ただし、人の臨床症状は軽度である。


以下のサイトが詳しい。


人獣共通感染症 第99回追加 口蹄疫は人に感染するか」:

http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/05_byouki/prion/pf99ad.htm


//治療法はない


FMDが発生しておらず、FMDワクチンを接種していない国(FMD清浄国)では、FMDが発生した場合、FMDウイルスの感染拡大を防ぐため、そもそも治療するという選択肢はなく、殺処分する。


//感染経路は多岐にわたるため、
//「封じ込めは不可能」ですから、
//ニュースにある「これじゃ無理だ。感染は防げない」は
//当然のことなのです。
//どれくらい広がるかはウイルスに聞いてみないと分かりませんし、
//10年前のウイルスと今回のFMDウイルスは全く同一ではありませんから、
//広がり方も違ってくるのは致し方ないことです。



//「封じ込めは不可能」


以下のサイトに2004年に世界におけるFMDの発生状況を示した地図がある。

https://www.llnl.gov/str/May06/Lenhoff.html


茶色→2004年にFMD発生があった国
緑色→FMD発生がなかった国
紫色→FMDの発生状況が把握できていない国


地図で緑色で塗られた国々は、FMDの侵入を封じ込めている国である。
これらのFMD清浄国は、北米、オーストラリア、ヨーロッパ等の先進国が多い。
また、FMD非清浄国は、発展途上国が多い。


日本も1908年から2000年までの92年間は清浄国であった。また、2000年3月に宮崎県でFMDが発生したが、同年9月にOIEに認められて清浄国に復帰したため、2000年9月から2010年3月までの10年間も清浄国であった。
すなわち、1908年から2010年までの102年間の中で、FMDの侵入を許したのは二回だけで、これら以外は侵入されていない。


つまり、封じ込めは不可能な疾病ではない。


//しかし、広がったからといって、
//多くの動物は回復し、
//感染した肉を食べたところで人には影響ないのです。
//これは農水省のHPにも書かれています。



//多くの動物は回復し、
//感染した肉を食べたところで人には影響ないのです。


木村盛世氏の示す農水省のHPをみると、「人が牛肉や豚肉を食べたり、牛乳を飲んだりしても口蹄疫にかかることはありません」とはかかれているが、「広がったからといって、多くの動物は回復する」とはかかれていない。


農水省のHP:

http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_fmd/index.html


また、成牛・成豚の多くは回復するが、乳牛では泌乳量の低下、二次感染による乳房炎の発生により、肉牛・肉豚では発育遅延による肥育期間延長により、また、子牛、子豚では高確率で死亡するため、産業動物としての価値が大きく損なわれる。


これに関しては、私の先のエントリーに記載してある。


木村盛世氏のブログエントリー「口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.4―」に対する指摘:

http://d.hatena.ne.jp/plecostomus1/20100602/1275491182


また、木村盛世氏の言う通り、口蹄疫感染を野放しにした場合の経済的損失については、honeyB_Bさんが具体的な試算をわかりやすく提示されている。


厚生労働省木村盛世医務技官が言うとおりに口蹄疫と共存した場合の簡単な試算:

http://togetter.com/li/26478


//2001年にイギリスでFMD大流行が起こりました。
//その際のBBCニュースには多くの人の意見が挙げられています。
//パニックを起こした英国政府とは裏腹に、
//多くの視聴者の声は、的を得ています。



BBCニュースに対する人々の意見として、100以上のコメントが記載されている。


BBCニュースに対する人々の意見:

http://news.bbc.co.uk/2/hi/talking_point/1227938.stm


「パニックを起こした英国政府とは裏腹に、多くの視聴者の声は、的を得ています」とかかれているので、60個まで読んでみた。
その結果、専門家としての意見は2つだけ(獣医師であると述べている)、残り58個は、氏名のみ記載された一般視聴者による投稿であった。
その内容は、木村盛世氏の書き方では、人々の意見の多くが、殺処分に対する疑問や反対意見かのようにかかれているが、そんなことはない。殺処分を支持する意見もある。更に、殺処分に対する意見の多くは、殺処分のみではなく、ワクチン接種をやれという意見であった。
ワクチン接種には、今回の宮崎県のようにリングワクチネーションを実施しろという意見と、常時ワクチン接種をしろという意見があった。なお、常時ワクチン接種を実施した場合の問題点については、以下に記載してある。


井上晃宏氏(医師)のブログエントリー「口蹄疫殺処分は、食肉輸入の非関税障壁を維持することが目的である」に対する指摘:

http://d.hatena.ne.jp/plecostomus1/20100604/1275676613


//「人にうつらないし、食べても安全。
//殆どの動物は病気から回復すると言うのに、
//なぜ殺す必要があるのか」



殺処分する理由は、先のエントリーで示したので割愛。


//「1940年代まではFMDにかかっても治るまで放置してきた。
//それが殺処分するという政策転換をし、
//他のヨーロッパ諸国も同様の政策をとるよう説き伏せた」



FMDワクチンの大量生産が可能になったのは、1951年。それまでは、大量生産できなかった。
このため、治るまで放置してきたのではなく、放置せざるを得なかっただけである。


口蹄疫のワクチンの歴史は以下のサイトが詳しい。


人獣共通感染症 第116回追加 口蹄疫との共生>3.ワクチンの開発:

http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/05_byouki/prion/pf116.htm


//「感染源はたくさんある。
//全ての家畜を殺し、トリや昆虫を殺し、
//はたまた人間をも殺すまで殺し続けるのか」

//「埋められずに放置された家畜の肉をカラスなどがついばみ、
//感染を広げているではないか」

//「経済損失の大きさを考えているのか」

//ケニアの獣医師のコメントは冷静です。
//「ケニアではFMDはごくありふれた病気だ。
//イギリスの対応は大げさすぎる」



ケニアの獣医師さんが「ケニアではFMDはごくありふれた病気だ。」とコメントするのは、当たり前だ。ケニアは、非清浄国、つまり、FMDウイルス常在国なのだから。


FMDウイルス常在国の獣医師からみれば、そりゃあ、「イギリスの対応は大げさすぎる」と思うかもしれない。しかし、清浄国では、FMDウイルス根絶のため、殺処分が必要。


更に、ケニアの獣医師さんのコメントには、続きがある。
「検疫とワクチン接種と消毒を実施すれば、この病気の感染拡大を防止できる」とコメントしている。
木村盛世氏の主張する、「発症している牛や豚はそのうち回復するから殺処分しなくてもよい」などという対応とは違うのだ。


//今、日本のニュースで流れてくるのは
//「なぜ防げなかったのか」「人災だ」といったものばかりです。
//しかし9年前に多くの議論がされているのですから、
//なぜ日本のメディアはこうした番組を作ってゆかないのか不思議です。



//しかし9年前に多くの議論がされているのですから、


9年前、つまり2001年のイギリスにおけるFMD発生時に「多くの議論」がされたにもかかわらず、2007年のイギリスにおけるFMD発生時も、FMDコントロールには殺処分が実施されている。
すなわち、木村盛世氏の言う「多くの議論」は、その後の方針に影響を与えなかったわけだ。


ウィキペディア口蹄疫>事例

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A3%E8%B9%84%E7%96%AB


実りのある「議論」であれば、殺処分の見直しがあるだろうに、そうはならなかった。
「多くの議論」は、「殺処分はかわいそう」といった海外悪性伝染病についての知識が十分でない人々による感情的反発が大きい。
また、今回の木村盛世氏の一連のFMDに関するTweetに代表される、世間に影響力があるのに、無知、あるいは、指摘されても理解する能力のない知識人による扇動があったのかもしれない。


//なぜ日本のメディアはこうした番組を作ってゆかないのか不思議です。


最大の畜産地域である都城市口蹄疫が飛び火して、大変な事態になっている現在、「FMDの殺処分は必要ない」などという世間の混乱を招く番組を作るメディアが存在すると考える、その思考パターンが不思議です。


//メディアだけでなく、
//研究者からも多量殺処分に関する否定的な報告も出ていますが、 ※1)※2)
//日本では殺処分が有効、と言ったものばかりですから、
//違和感があります。



清浄国におけるFMD発生時の殺処分という対策は、OIEの定めたFMDコントロールの大原則。日本だけがやっているわけではない。
「研究者からも多量殺処分に関する否定的な報告」もあるかもしれないが、主流ではない。


また、引用文献がふたつ記載されている。残念ながら、これらの文献は全文公開されていない。


しかしながら、公開されている要約を読んだ限り、「多量殺処分に関する否定的な報告」とは思えないのだ。
(ただし、これについては、全文を読めないので確定できてない。読める方、教えてくださいね。)


参考文献=※1)

The foot-and-mouth disease epidemic in Dumfries and Galloway, 2001. 2: Serosurveillance, and efficiency and effectiveness of control procedures after the national ban on animal movements

http://veterinaryrecord.bvapublications.com/cgi/content/abstract/156/9/269


参考文献=※2)

Relationship of speed of slaughter on infected premises and intensity of culling of other premises to the rate of spread of the foot-and-mouth disease epidemic in Great Britain, 2001

http://veterinaryrecord.bvapublications.com/cgi/content/abstract/155/10/287


//イギリスでの多量殺処分の結果、
//経済損失は1兆6 千億円程度と言われています。
//日本の牛は国際的ブランドですから、
//被害の程度はこれ以上になる可能性もあります。



木村盛世氏のいうとおり、殺処分をやめてしまえば、国内全域で飼養されている牛や豚にまたたくまに感染が拡大し、口蹄疫被害の程度は、確実にイギリスにおける2001年の損失以上になるだろう。

 
//今回流行しているのは突然変異を起こして、
//人間にも感染するsuper killer ウイルスではありません。



相変わらず、人に感染するかどうかを問題にしている。
FMDで問題になるのは畜産動物としての価値がなくなること。


//そうであれば、多くの経済損失とともに農家の負担、
//獣医師や担当者の疲弊を生み、
//文化的価値も大きい種牛を失いながらも、
//効果があるかどうか分からない多量殺処分をする意味は
//全くないと思います。



効果があるかどうか分からないのは、殺処分をしないでそのままにしておくとい選択肢の方。


//動物の感染症として恐れられる感染症として
//H5N1トリインフルエンザがあります。
//このウイルスはヒトにも感染すると言うことで、
//WHOが最も恐れている病気の一つです。
//現在499人の症例がありうち 295人が亡くなっています
//(致死率約60%ですからこちらはsuper killer ウイルスといえます)。


//繰り返しますが、FMD流行の歴史の中で、
//ヒトが罹って死んだという確定例はありません。



//ヒトが罹って死んだという確定例はありません。


また、人への感染性を問題にしている。
結局、「FMDに感染すると産業動物としての価値がなくなる」という最大の問題点を木村盛世氏は理解できないのだろう。


//今のままゆけば、H1N1豚インフルエンザに続く
//「政府が生んだパニック=人災」になってしまいます。
//今日本がすることは、殺処分をやめ、
//世界に向けて「不必要な殺処分対策をやめる」よう訴えることでしょう。



口蹄疫が続発している現在、「日本が、殺処分をやめ、世界に向けて「不必要な殺処分対策をやめる」よう訴え」たりすれば、日本は世界の笑い者になるだろう。